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酒場遺産 ▶90 静岡焼津 食事処かどや 漁師町ならではの極楽酒場

 初めて静岡県焼津を訪ねた。焼津駅北側の工業団地での往査を終えた後に、ご一緒した大先輩のN氏と焼津駅の海側の街を歩いた。焼津の町は、全国有数の水揚げ高を誇る焼津漁港を中心に発展した港町だ。駅から15分ほど歩くと焼津港がある。その漁港近くに最近できた、「焼津PORTERS」という漁具倉庫をリノベーションした小さな商業施設がある。行ってみると、既に日は暮れほとんどの店は閉まっていた。燻し銀の倉庫建築とセンス良い店のインテリアが調和していて実に美しい。近々宿泊施設もオープンとのことだった(既に稼働しているだろう)。

 「一杯飲みたいね、美味い魚をたべさせてくれる店はないかな」など大先輩と漁港を歩いていると「食事処 かどや」が目の前に現れた。「漁港で70年。漁業関係者も御用達の海鮮処」とある。偶然の出会いだったが大当たりだ。現在の店舗は新しいが、創業70余年続く老舗食堂という。

 刺身の豊富さはさすが漁師町だ。壁に掛かる白板には「本日のお刺身」とあり、まぐろ中とろ、赤身まぐろ、とんぼまぐろ、かつお、ほたて、ほっき、サーモン、〆さば、いしなぎ、炙り〆さば、ぶり。「本日のおすすめ定食」は、ぶり刺し身定、ぶりカマ焼き定、ぶりカマ煮つけ定、鯛の姿煮つけ定。単品では、まぐろ胃袋酢味噌、まぐろほほ肉ステーキ、名物かどやの肉じゃが……、珍しいものも多い。この日、炙り〆さば、ぶり刺し、まぐろ中とろ、赤身まぐろなど頼んだが、鮮度の高いまぐろ赤身などの美味さは想像以上だった。そして盛りが大きい。酒は焼津の名酒「磯自慢」は品切れだったが、「若竹本醸造」(清水)、「初亀本醸造」(藤枝)、「女泣かせ純米大吟醸」(島田)と頼む。正一合350~850円という安さだ。地元の漁師や漁業関係者が多く来るというだけあり、品質と価格は直球勝負、極楽な酒場だった。焼津にまた来る機会があったら必ず寄りたい店だ。(似内志朗)