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酒場遺産 ▶86 谷中銀座 角打ち 越後屋酒店 明治37年創業で100年以上

 谷中は、江戸時代に神田あたりの寺が移され寺町となったという。関東大震災や第2次世界大戦の空襲の影響が少なかったためかつての街並みが残されており、下町情緒の味わえる人気のエリアとなっている。とりわけJR日暮里駅近い「夕やけだんだん」から西端の「よみせ通り」まで続く谷中銀座商店街は、週末は勿論、平日でも多くの日本人・外国人観光客で、細い道幅の商店街は混雑する。もともと谷中銀座は昭和20年頃に自然発生的に生まれ、戦中・戦後を通じて地元の生活を担う商店街として栄えた。一時、商店街が低迷する中で店の数も減った時期もあったが、平成になると「谷根千(谷中・根津・千駄木)」として人気が集まり、今の賑わいに繋がっている。

 谷中銀座の西端近くの「越後屋酒店」は、明治37年創業の100年以上続く酒屋で、店先にはビールケースを積み上げた簡易テーブルやベンチが置かれ、観光客などに酒を提供していた。筆者も休日には近くの総菜屋でツマミを買い、ベンチで酒を飲みながら至福の時間を楽しんだ記憶がある。その越後屋さんが2022年、酒の売場だった店を「酒屋+立ち飲み居酒屋」へ全面的に改装。グレードアップで以前の良さがなくなってしまう場合もままあるのだが、越後屋さんはかつての気楽さ良さを残しつつ、より快適な空間に仕上げている。酒の値段も1合500~600円程度と変わらない。酒は雪の茅舎・澤乃井・蒼天・酔鯨・福小町・美丈夫・浦霞・龍力・天の戸・幻の瀧・稲里・聖・米鶴など全国の名酒、希少種が並ぶほか、甘酒、焼酎、梅酒なども。充実したのは料理で、日本酒に合う郷土料理を頼める。食べ物は店内持ち込み放題で「おつまみ持ち込みOKです(You can bring your own food)」とある。近所で総菜を買い、この店で酒を頼むのもよい。季節の良い休日には、「夕やけだんだん」に座り、沈む夕日を眺めた後、越後屋酒店で角打ちといきたいものだ。(似内志朗)