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酒場遺産 ▶96 新潟古町 喜ぐち とりわけ寒ブリは絶品

 夕刻に新潟駅に着いた。新潟駅から万代橋を渡りさらに歩くと、にぎやかな「古町」の繁華街へと出た。新潟は1655年(明暦元年)に港が整備され北前船が寄港するようになると、この一帯は発展を遂げ、新潟随一の繁華街として繁栄したという。街路は南北に走る信濃川と平行な「通り」(西堀通り、古町通り、東堀通り、本町通りなど)と、東西に走る「小路」からなる。古町通りを北に歩くと、華やかな飲食店街を外れ、少し寂しげな背の低い木製アーケード街が続く。目当ての「喜ぐち」はそんな場所にあった。創業は昭和40年という老舗だ。今の店主である木口文敏氏が東京で修業の後に、この地で店を開いたという。暖簾をくぐると右手に厨房とカウンターがあり、奥に広い座敷がある。

 壁には有名人らのサイン色紙とともに短冊メニューが貼られている。壁の黒板には「本日のおすすめ」として、ブリ刺し、メジマグロ刺し、タイ刺し、イカ刺し、アジのたたき、ズワイガニ、メスガニ、あん肝、冬菜ひたし、のど黒塩焼き、銀だら焼きなど、魅力的なメニューが並ぶ。居酒屋メニューも幅広くカバーして揚げ物、鍋物、ご飯もの、ラーメン、餃子まで豊富だ。新潟名物のたれカツ丼、のっぺなども人気という。酒はビールからカクテルまで一通りあるが、新潟といえば日本酒だ。越後杜氏、鶴齢、八海山、麒麟山、久保田千寿、越乃寒梅、麒麟山伝辛などが並ぶ。この日は寒風の中を歩き通しだったので、麒麟山伝辛を熱燗で頼んだ。肴はブリ刺しと鶏のもつ煮込みだ。お通しを含めどれも美味しく、とりわけ寒ブリは絶品だった。どれも手頃な価格だ。フロアを仕切る気立ての良い女性は2代目文敏氏の奥様だという。客の様子を見ると、この店が地元客にとても愛されていることが分かる。訪れたのは日曜夜、幅広い年代の人で満席だった。温かな座敷で新潟の酒と食を満喫し、引戸を開けると冷たい風が吹き込んできた。淋しいアーケード街を歩きホテルに戻った。(似内志朗)