政策

社説 不動産業界 相次ぐTOB成立 危機対応であれば歓迎

 インフレ進行とこれまでの金融緩和により資産価値の増大が続いている。住宅・不動産各社は、大手を中心に今期も最高益をうかがう情勢だ。ただ、過去最高益をたたき出すだけでは今や市場からは評価されない。安定収益を生み出す資産を多く持ち、その不動産の価値に大きな含み益があったとしても、その資産を活用することで資本効率を高められなければ高い評価が受けられない。つまり、自己資本利益率(ROE)が重視され、不動産各社も自社株買いなどでROE目標を引き上げている。

 東京証券取引所が上場企業に資産効率の改善を促したことを端緒にアクティビスト(モノ言う株主)は、不動産価値に着目して優良な不動産を保有する企業に狙いを定めている。旧財閥系を始めとする不動産大手や大手鉄道各社などはそのターゲットとなる筆頭格である。経営手腕は過去とは違ったものが求められるようになった。

 こうした経営環境の中で各社が気をつけなければならないのが同意なきTOB(株式公開買い付け)に〝遭遇〟することだ。Jリート業界では、不成立に終わったものの、外資ファンドが相次ぎ敵対的TOBを実施した。Jリートに限らず上場不動産会社に対しても、同意がある・ないに関係なくTOBの動きが活発化する可能性がある。実際、昨年は外資によるサムティホールディングスへのTOBが成立し、ヒューリックがレーサムをTOBで傘下に収め、今年は長谷工コーポレーションによる東海圏を中心に事業展開する戸建て事業者のTOBが成立した。不動産市場における企業の統合が進む可能性に注目が集まっている。

 不動産大手の浮動株で外国人比率は低くないとみられ、米国のアクティビストのエリオット社は、三井不動産や住友不動産の株式を取得し、英国のパリサー社は東京建物の株式を取得している。不動産大手の時価総額は、海外勢にとって巨額に映るほどの規模にはなく、不動産の価値に比べて株価が割安であれば仕掛けてくる可能性はある。同意なきTOBに発展しないようにするには時価総額を上げることだが、そのためには企業成長をしていくしかない。

 ただ、中長期目線で見ると、利上げが待ち受けている。不動産大手各社は長期固定で金利耐性をつけているとはいえ、有利子負債が兆円台に及ぶだけに金利には機敏にならざるを得ない。今後のプロジェクトは不動産価格が高騰している時期に仕入れた用地に加え、止まらない開発コストの上昇が追い打ちをかける。

 リーマン・ショックは、債務担保証券(CDO)といったデリバティブ商品によって助長されたレバレッジ投機が主因だった。業界では、同じ轍を踏むまいと保守的な財務戦略を意識している。人口減少といずれまた来る危機への応戦力として企業統合が進んでいくのだとすれば業界にとってもプラスに働くと歓迎したい。